金田ごときものに遠慮をする訳がない。 ふんその七代目樽金がどうかしましたかいあら、あなたまで冷かしては立つ瀬がありませんわ。 なにそりゃ何も水島に限る訳では無論ないのだから苦沙弥が何と云って邪魔をしようと、わしの方は別に差支えもせんが…… 従って円転滑脱の鈴木君もちょっと狼狽の気味に見える。 あらまあ、よく真面目であんな嘘が付けますねえ。 そう、いつでも巨人引力ばかり書いてはおらんさ。 大方草稿を書き卸す序開きとして妙な声を発するのだろうと注目していると、ややしばらくして筆太に香一とかいた。 嫁に来てから滋養分でも食わしたら、少しは延びる見込みがあると思ったんだと真面目な顔をして妙な理窟を述べていると門口のベルが勢よく鳴り立てて頼むと云う大きな声がする。 構うものかと滅茶苦茶にあるき廻る。 君は一生旅烏かと思ってたら、いつの間にか舞い戻ったね。 それを君がすました顔で写生するんだから苛い。 主人も自分で愛想が尽きたと見えて、そこそこに顔を塗り消してしまった。 そこでこの矛盾なる現象の説明を明記して、暗黒の淵から吾人の疑を千載の下に救い出してくれた者は誰だと思う。 しかるに不思議な事には学者の智識に対してのみは何等の褒美も与えたと云う記録がなかったので、今日まで実は大に怪しんでいたところさ