少しは気の毒そうにでもしている事か、乗る権利もない布団の上に、傲然と構えて、丸い無愛嬌な眼をぱちつかせて、御前は誰だいと云わぬばかりに鈴木君の顔を見つめている。 失敬な、――甘木さんへ行って聞いて見ろ――元来御前がこんな皺苦茶な黒木綿の羽織や、つぎだらけの着物を着せておくから、あんな女に馬鹿にされるんだ。 コップへ水を一杯頂戴しましょうと云う。 鈴木君は卒業後この極楽主義によって成功し、この極楽主義によって金時計をぶら下げ、この極楽主義で金田夫婦の依頼をうけ、同じくこの極楽主義でまんまと首尾よく苦沙弥君を説き落して当該事件が十中八九まで成就したところへ、迷亭なる常規をもって律すべからざる、普通の人間以外の心理作用を有するかと怪まるる風来坊が飛び込んで来たので少々その突然なるに面喰っているところである。 知っても尊敬畏服の念は毫も起らんのである。 草双紙にある猫又の血脈を受けておりはせぬかと自ら疑うくらいである。 そりゃ好いが、その展覧場へ東風が這入って見物していると、そこへ独逸人が夫婦連で来たんだって。 まあステッキの代りくらいに考えてるかも知れんよ。 少しいつける方が薬ですよ、奥さんしかし顔の讒訴などをなさるのは、あまり下等ですわ、誰だって好んであんな鼻を持ってる訳でもありませんから――それに相手が婦人ですからね、あんまり苛いわと鼻子の鼻を弁護すると、同時に自分の容貌も間接に弁護しておく。 迷亭は口をもがもがさしている。 さっきから二人で大待ちに待ったところなんだ。 ちと伺いたい事があって、参ったんですがと鼻子は再び話の口を切る。 玄関を右に見て、植込の中を通り抜けて、勝手口へ廻る。 細君か、細君はなかなかさばけた人だ