こんな気取った分け方はこの机と一向調和しないと思うが、あえて他人に害を及ぼすほどの事でないから、誰も何とも云わない。 さあ行きましょう。 知るものか。 実はせんだって臥竜窟を訪問して主人を説服に及んで悠然と立ち帰った哲学者と云うのが取も直さずこの八木独仙君であって、今主人が鹿爪らしく述べ立てている議論は全くこの八木独仙君の受売なのであるから、知らんと思った迷亭がこの先生の名を間不容髪の際に持ち出したのは暗に主人の一夜作りの仮鼻を挫いた訳になる。 見ると迷亭君は一枚の名刺を握ったまましゃがんで挨拶をしている。 苦沙弥君分ったかい 雪江さん、地蔵様は御腹が減らないのととん子がきくと牡丹餅が食べたいなとすん子が云った。 誰を連れて来たんだい それこそ文明中学の名誉に関する ならないところを毎日毎日御苦労にもやるところが細君のえらいところである。 あれには当人大分説があるようじゃないか 今朝なんかも七時までに是非おこせと云うから、起こしたんでしょう。 君独仙の説を聞いた事があるのかいと主人は剣呑だから念を推して見る。 もし浮華虚栄の念をもってこれに対する時はこれほど愚物を煽動する道具はない。