雪江さんが今面白い話をなさるところだからと仕事を隅へ片付ける。 わたしもこれからそうしよう 敵の太刀に心を置けば、敵の太刀に心を取らるるなり。 また小供の癖に生意気を云う。 小供が泣くときに最中の一つもあてがえばすぐ笑うと一般である。 そうでもないようだ すべからく道え、天地と我と什麼の交渉かある。 虎蔵君と並んで立っているのは二十五六の背の高い、いなせな唐桟ずくめの男である。 誰が来たんだと主人が聞くと学校の生徒さんでございますと御三は雪江さんの泣顔を横目に睨めながら答えた。 愚人は得てこんなところに意地を張るものだ。 もし不道徳だなどと云えば僕の顔へ泥を塗ったものである。 そんな心持ちになってどうするんだい 僕もああ云う伯父さんを持って仕合せなものさ。 それだからこの通り先日僕が白木屋へ注文したフロックコートを着ているのさと注意する。